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「大人力」に学ぶメール術――コラムニスト 石原壮一郎

2018年12月21日

余裕のある一行でデキる人かどうか決まる

メールのやりとりは、相手の顔が見えないだけに、言葉遣いには気を使うもの。特に、頼みづらいことを頼んだり、無理な要求を断ったりするときなどは、言葉の選び方を誤ると、こちらの印象を悪くしてしまいます。メールを書こうにも、なかなか文章が進まず、頭を悩ませている人も多いのではないでしょうか。

そこで、「大人力」に関する著書を多数持つ、コラムニストの石原壮一郎さんに、「大人力あふれるメールの言葉選び」を伝授してもらいました。シチュエーション別の“大人”のフレーズも紹介しています。

メールだからこそ「潤いを持ったやりとり」ができる

――ビジネスシーンにおける言葉選びにおいて、まず心掛けるべきことは何でしょうか?

石原:ビジネスの世界に「以心伝心はない」と思ったほうがいいですね。想像以上に、人は自分と違う常識や感覚を持っているものです。「こう言えば通じるだろう」と甘く考えていると、親切のつもりが非難だと受け止められたり、ただの質問のつもりがきつい印象を持たれたりというように、行き違いや誤解を招いてしまいます。

ただし、誤解されないよう言葉をつくすのは、基本中の基本ですが、一方で、正論やロジカルな言葉ばかりでは味気ないですよね。言葉は、情報を伝えるのと同時に、その人の印象も伝えます。顔が見えないメールならなおさらです。少しでもやわらかい印象を持ってもらうためには、挨拶や心遣いといった“大人”の言葉もプラスしたいところです。

――特にメールに関しては、昔からさまざまな文章術やマナーが存在していた印象があります。

石原:メールに返信すると、件名に「Re:」という文字がつきますよね。昔は「『Re:』をつけたままの件名で返信するのは失礼」とされ、返信の度に件名をわざわざ書き換えていたんですよ。また、本文の下に引用がだらだら続くのを「怠慢だ」と言う人もいました。

でもこれは、メールが届く量が少ない時代のお作法。毎日大量のメールが届く今では、件名を書き換えたり、引用部分を消したりすると、何の話かわからなくなってしまう(笑)。時代によってマナーは変わりますから、「メールはこうあるべし」と決め付けて、相手を評価するのはたいへん危険なことです。

――最近は、どんなマナーが生まれているのでしょうか。

石原:スマートフォンが普及して、メールのマナーも随分変わりました。代表的なものは「夜中にメールを出すのは失礼」でしょうか。PCメールをスマートフォンに転送する人が増えたので、枕元で着信音を鳴らさないようにする配慮でしょうね。LINEやメッセンジャーでやりとりをするように、外出先から用件だけ簡潔にメールする人も見かけるようになりました。

――メッセンジャーやSNSが登場して、メールの役割も変化しているのではないでしょうか。

石原:そうですね。当初、メールに求められていたスピードや簡潔さは、今やメッセンジャーが担っています。むしろメールは、手紙に近いものになってきていますね。

裏を返せば、天気の話から始めたり、筆をつくして気持ちを伝えたりなど、やりとりに潤いを持たせられるのがメールの強みでもあります。「今日は一段と暖かいですね」など、余裕を持った一行を書けるかどうかで、「デキる人」の印象が決まるのではないでしょうか。

頼む、断る、謝る…シチュエーション別“大人”のフレーズ

――ここからは具体的なシチュエーション別に、大人力あふれる言葉遣いを教えていただければと思います。例えば、「頼む」場面ではどうでしょうか。

石原:上司から部下に、元請けから下請けになど、強い立場から弱い立場に頼むときほど“大人”の力量が問われますね。相手に「上から言われている」と受け止められると、どうしても角が立ちますから。用件のみならず、仕事のパートナーとして相手をリスペクトしている気持ちを表現することが大切です。

――ただ、いつも同じ頼み方をしていると「またか…」と思われそうです。

石原:確かにパターンは多いほうがいいですよね。情に訴える、逃げ道をふさぐなど、頼むレベルによってフレーズを使い分けられると“大人”上級者でしょう。「◯◯さんの右に出る者はいない」なんて、本当なのか確かめようもないんですけどね(笑)。

相手がいい気分でOKと言えるようなフレーズを入れる、そこに用件のみ伝えるメールとの差が生まれます。

<大人力あふれるフレーズ例(頼むとき)>

・こういうことは若手に任せられなくて
・△△さんからも「彼なら間違いない」とお聞きしまして
・◯◯さんにお願いできれば何の心配もないだけに、いつも頼りにしてばかりで申し訳ないのですが
・●●をやらせたら東池袋(その人が住んでいる地名などを入れる)では右に出る者がいないといわれている□□さんに、ぜひ折り入ってお願いしたいことがございます

――「頼む」の裏返しになりますが、「断る」のもまた悩ましい場面だと思います。

石原:先程の「頼む」場面を思い出してほしいのですが、頼むほうも「断られたらどうしよう」「相手に無理を言っていないだろうか」と考えているんですよね。いくらビジネスとはいえ、そこで「無理です」と無機質に断るのもそっけない。はっきりとNOを表明しつつ、ひと手間かけることで相手のショックをやわらげることを意識したいですね。

――ビジネスの場面以外では、飲み会などプライベートの誘いを断るのもなかなか難しいかと…。

石原:「時間ができたらこちらからご連絡します」とか…。そう言っても、時間ができることなんてないんですが(笑)。あとは「その日は予定があって行けません。己の日頃の行いの悪さを恨むのみです」など、自分に天罰が下ったことにするのもいいでしょうね。

<大人力あふれるフレーズ例(断るとき)>

・お引き受けしたいのはやまやまですが…
・◯◯さんのご期待に沿えないのは忸怩(じくじ)たる思いです
・ご事情は重々お察しいたしますが、若輩者の私には荷が重いので、■■という立場からできる限り応援させていただきます
・(お酒をすすめられて)大丈夫です、ウーロン茶でも酔える便利な体質なものですから

――「謝る」もまた、メールでは難しいシチュエーションではないでしょうか。

石原:さすがに謝る場合は、天罰のせいにしてはいけません(笑)。謝罪は、対応を誤ると火に油を注いでしまいますし、普段はフランクな感じでも、きちんと謝罪をすれば「こういうときはちゃんとしているんだ」という評価につながるかもしれませんから。

――世代によっては、メールでの謝罪を失礼だと感じる人もいるのではと思います。

石原:そうですね。とはいえ、いきなり会いに行くのも、相手に時間を取らせてしまいます。まずは「取り急ぎメールでのご連絡で失礼します」「メールでこういうことを言うのは失礼だと承知しているのですが」と一報を入れ、「改めてお詫びに伺わせていただいてもよろしいでしょうか」と断りを入れるとスムーズでしょう。

だいたい40代以下であれば、メール上の謝罪でも大抵のことは済むのではないでしょうか。まず謝り、原因と再発防止策を説明し、重ねて謝る、といった形が基本かと思います。

逆に、軽いミスで「重ねてお詫びを…」と謝罪しては相手も恐縮しますから、さじ加減をきちんと見極めたいですね。これは高度な技ですが、「パソコンの前で土下座しています」「自分を戒めるためにお昼を抜きました」など、お茶目に謝ることが功を奏する場合もあります。

<大人力あふれるフレーズ例(謝るとき)>

・己の未熟さを恥じるのみです
・この仕事に慣れてきて、油断が出たのかもしれません
・謝って済む問題ではないことは重々承知しておりますが…
・(軽い謝罪の場合)キーボードに額をこすりつけています

受け手にも求められる“大人”の配慮

――お話を伺っていると、受け手の側にも「こう言われたらどう対応するか」という力量が問われているように感じました。

石原:その言葉を選んだ相手の気持ちや、一言を添えてくれた心遣い、それらを読みとる“大人”の読解力が必要ですね。こと「メールの作法」となると、表現力や文章力など、送り手が問題にされがちですが、メールに込めた大人力は受け手に真意を読みとる力があってこそ成り立つものですから。

――メールを読みとる上で、気を付けるべき点はありますか。

石原:相手に求めすぎないことですね。期待どおりの答えが返ってこないことなんて、よくあるじゃないですか。その度に、「なぜこの人はこれができないんだ」「こう返すべきじゃないのか」と、ないものねだりをしては、ストレスを溜めるばかりです。

気を使う人ほど相手にきびしいんです。相手に自分と同じレベルを求めてしまうんですね。相手に求める気持ちをグッと抑えて、メールという共同作業をスムーズに進めるのが“大人”の配慮かと思います。

石原壮一郎(いしはらそういちろう)

コラムニスト。三重県松阪市生まれ。
月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。“大人”のすばらしさと奥深さを世に知らしめた。
以来、大人をテーマにした著書を次々と念入りに発表しつつ、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、ウェブ、ゲームなど、あらゆる媒体で活躍し、日本の“大人”シーンを牽引している。2018年刊行の『本当に必要とされる 最強マナー』(日本文芸社)では、実用度の高い“大人”のビジネスマナーをわかりやすく紹介している。