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「謝罪のプロ」に聞くクレーム対応の基本――東北大学特任教授・人事コンサルタント 増沢隆太

2018年12月21日

クレーム対応はあらゆる営業活動の中で最も難しく戦略的な活動

大学卒業後に就職した会社を、30歳を過ぎたタイミングで退職し、ロンドン大学大学院に進んだ増沢隆太さん。帰国後は、戦略的な視点を持つ人事コンサルタントとして、組織での人に関わる問題に深くコミットしてきました。
シンプルな思考に基づいた増沢さんの明快な語り口は、特任教授を務める東北大学での授業風景が目に浮かぶようです。今回は『謝罪の作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)という著書があり、「謝罪のプロ」として数々のメディアに出演している増沢さんに、メールでのクレーム対応から会社組織全体の問題まで話を伺いました。

クレーム対応は、例えるなら「負け戦」。だから難しい!

――顧客対応をする担当者にクレームのメールが入ったとします。「自分に非がある場合」「直接非がない場合」「お客様の思い込みや言いがかりの場合」など、クレームにはさまざまなパターンがあると思いますが、担当者がより良いクレーム対応をするための心構えを教えてください。

増沢:人間は感情を持つ生き物なので、無意識に「これは自分のせい」「あれは人のせい」と責任の所在を分けてしまいがちです。しかし、担当者が心の中で、誰の責任なのかを勝手に振り分けてしまうのは、いいことではありません。

クレーム対応は、あくまでも「会社の仕事」で「会社の課題」です。たとえ「誰かのせい」だったとしても、いったんその考えを脇に置きます。自分が悪かろうが、人が悪かろうが、お客様の言いがかりだろうが、同じ対応をする。お客様によって対応を変えると、話が食い違ったときに、会社にとってたいへんなリスクになるからです。

――顧客対応のスタッフは、エスカレートするお客様と、日々向き合う必要があります。中には、収まらない怒りをぶつけてくるお客様もいらっしゃいます。担当者は、気持ちをどう保てばいいでしょうか。

増沢:「あなたにこんなことを言われる筋合いはない」と、体が反応してしまうことはありますよね。理不尽な侮辱に対して防衛本能が働くのは、人間の本能として当然のことです。

クレーム対応は「普通の対応をしてはいけない高度な仕事」ということを、きちんと理解する必要があります。でも、担当者はたいへんですよね。クレーム対応は「負け戦」ですから。

――負け戦ですか?

増沢:はい、「勝ち」はないことが決まっているのが負け戦です。豊臣秀吉のように特別に有能な人でも難しい仕事といわれます。ですので、大前提として、負け戦は事態を好転させようと思ってはいけない。無理して勝とうとすると、ただ負けて終わるどころか、下手すれば味方は全滅です。

第一目標は、やりとりをクロージングさせること。クレームが起きる段階でマイナスですから、プラスに転じようと考えずに、とにかくプラスマイナスゼロにもっていく。面倒くさいクレームが1つ終わったら、それはもうプロジェクトとして大成功です。

クレーム対応は、あらゆる営業活動の中で最も難しく、戦略的な活動だと思います。もし、担当者が顧客対応を通じて、高いコミュニケーション能力を身に付けたにもかかわらず、会社が評価しないのであれば、その方はそのスキルを持って、よその会社に転職できるチャンスとなるでしょう。それくらいクレーム対応は、営業で必要な要素を含んでいると思います。

日大アメフト部を反面教師にしながら、いいクレーム対応を考える

――2018年といえば、「日大アメフト部」の対応のまずさが浮き彫りになりました。日大アメフト部を反面教師として、いいクレーム対応について教えてください。

増沢:日大アメフト部は、悪い対応例をすべてやってくれました。ですから、いい対応は、日大アメフト部と逆のことをするといいのです。

1つ目は、自分の醜い部分、恥ずかしい部分を開示することです。自分の価値を意図的に下げるということですね。
2つ目は、「今日は時間も関係ありません。皆さんの質問をすべて聞きます」と、状況を受け入れることです。「私が悪いのだから、あなたの言うとおりにします」ということですよね。日大アメフト部の会見は、記者の質問を無視したり、拒絶したりしたのが問題です。

――今のお話は記者会見など、メディアに出る場合の対応でしたが、コールセンターや顧客対応する部署でも同じ対応をすればいいのでしょうか?

増沢:公になってもならなくても、まったく同じ対応をするべきです。担当者が自分の怒りの感情を出さずに、「どんなことがあったのでしょうか。ぜひ詳しくお聞かせください」と話を引き出す。初期の段階で、いかにお客様のクレーム内容を聞き取るかが明暗を分けます。

コールセンターであれば、相手のリズム感を損ねないように、どんどん話させることが大事なので、私なら「はい、はい」とあいづちを打つようにします。「そうなんですね」「本当ですか」と、相手を否定せずにとにかく話を聞くことです。

――お客様の怒りの感情を、先に出してもらうんですね。

増沢:そうです。全部感情を吐き出してもらった後に、「初めて買った人間には説明不足だよ。使い方、どうなっているんだよ」と言われたら、そこで初めて説明します。「実は見づらくてたいへん申し訳ありませんが、商品をお持ちですか?ラベルの裏を見ていただけますか?」と。

必ずこちらが説明できるタイミングが来ますから、それまできちんと話を聞く。クレームに発展する方は、そのタイミングが来るまでの時間が、普通のお問い合わせをする方より、少し長いだけです。

――今のお話は電話での対応でしたが、メール対応の場合はどうでしょう?

増沢:メール対応も電話と同じですね。「ご不快な思いをおかけいたしました。ぜひ内容をお聞かせください」と、担当者からお客様に必要な情報を投げかけます。相手から十分な返事がない場合は、「情報をきちんといただけないとこちらも対応ができかねますので、ぜひお教えください」と丁寧な言葉で繰り返していきましょう。
「そんなことはお前たちで考えろ」と言われたとしても、「情報をいただけませんと、対応はできかねます。ぜひお聞かせください」と毅然とした態度で接することです。

チャット対応でどつぼにはまる悪い対応

――メール対応の話がありましたが、最近ではチャットで顧客対応をする企業が増えてきました。チャットですと、細かいやりとりが無制限に続いてしまい、メールより対応が長引いてしまいそうです。

増沢:それは、担当者の必要としない話題に発展するからではないでしょうか。「お前の上司は誰だ?」「大学を出ているのか?」など、関係のない話になることで、担当者が疲弊します。まさにクレーマーの思うつぼですよね。クレーム外のことに付き合ってはいけません。いつ、どこで、何を買ったのかなど、まずはクレームに至った状況を把握して、担当者のすべき仕事を最優先することです。

――「お前はどういう教育を受けたんだ?」などと、お客様の気持ちがエスカレートしたら、どうすればいいでしょう?

増沢:クレーム外のことに一切返事をせずに、「恐れ入りますが、商品の不具合についてお聞かせください」と仕事の話に戻せばいいのです。クレーム外の話には答えない態度を3回貫けば、大抵、元の話に戻りますね。相手のクレーム外の内容に付き合っているうちは、仕事の話に戻れません。

真面目な人ほど、相手の問いかけを無視するのが嫌なのだと思います。でも、本来やりとりすべきでないことまで真面目に対応するのは、担当者個人の満足感の問題であり、クレーム対応自体とは無関係です。自分の個人的感情に振り回されて、仕事本来の目的を忘れてはいけないのです。

――ほかに、悪いクレーム対応の例があれば教えていただけますか。

増沢:悪い例として、「怒られたくないから、相手の言うことをさえぎる」というのがあります。
これは、逆に相手を怒らせてしまうこともありますので、明らかにお客様の言っていることが間違っていたとしても、粛々とあいづちを打ち、まずはクレーム内容を語ってもらうことです。

――クレーム対応の心構えとしては、相手にどう納得してもらうかですね。

増沢:そのとおりです。「納得」させるのではなく、「説得」しようとするのが間違いなんです。説得は最後の段階に行うものですが、対応に長けていない人は、初めから説得しようとしてしまいます。

クレーム対応は会社の経営責任

――「クレーム対応は、あらゆる営業活動の中で最も難しく戦略的な活動」というお話がありました。ポテンシャルの高い仕事であるにもかかわらず、クレーム対応という「ある種の汚れ仕事」を営業部署に置かず、別の顧客対応部署に任せっきりにしている企業が目立ちます。

増沢:ある程度大きな企業は、営業と顧客対応で部署を分けていますね。中小企業ですと、営業部門の中に、顧客対応のチームが含まれると思います。クレームを営業施策に活かせる会社であれば、部署を分けるか分けないかというような、社内の機能やしくみは関係ありません。なぜなら有能な会社は、クレーム対応を「経営責任」ととらえているからです。

もし、クレーム対応を経営責任ととらえずに、「対応の仕方の問題」と矮小化させて考える企業があるとすれば、その企業は限界であると言わざるをえません。クレーム対応が上手にできないということは、トラブルが起こったときに、どう対処するのか企業としての方針がなく、混乱が起きるということですから。

――「クレームはあってはならない」という企業風土もありそうです。

増沢:おっしゃるとおりです。ミスや間違いがあってはならないという考え方ですよね。でも、危機対応の大原則は「危機は必ず起きる」という意識を持つことです。ミスや間違いはおろか、クレームや事故といった、世間を巻き込む大きな問題もです。

これは、大企業だけでなく、官公庁や大学など大きな組織に共通する問題です。典型的なのは、日大アメフト部の問題でした。何かが起きると、「誰がやったんだ?」と当事者の突き上げが始まってしまいます。

クレーム対応を含め、企業の危機は常にあります。「ミスがあってはならない」という精神論で切り抜けようとするのであれば、その組織自体が間違っています。営業管理者の限界といえるでしょうね。

執筆:増沢隆太(ますざわりゅうた)

東北大学特任教授。人事・経営コンサルタント。株式会社RMロンドンパートナーズ代表。
就活やキャリア、人事政策、ハラスメント対策に関する高い専門知識を持ち、企業や官公庁での多数の指導・講演実績を誇る。近年では、危機対応コミュニケーションの専門家として多くのメディアに登場している。『謝罪の作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『戦略思考で鍛える「コミュ力」』(祥伝社)といった書籍を執筆。